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読書&映画ドラマ感想

「あの戦争から遠く離れて 私につながる歴史をたどる旅」感想

「あの戦争から遠く離れて 私につながる歴史をたどる旅」

■基本データ
著者 城戸久枝
出版社 文芸春秋
初版 2007年8月

妻が黒竜江省出身なんですが、妻との縁ができたことでこの地域のことに興味が湧いてきて、何かそれに関連した本を読んでみようと辿り着いた本です。

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この本は、作者の父親を題材にしたものです。
父親は中国残留孤児です。4歳になる直前、実の両親と生き別れるという過酷な体験を経て日本への帰還を果たした、そういう人です。

帰ってきたのは文化大革命真っ最中の1970年。日中国交正常化(1972年)より前です。そんな時にほぼ自力(!)で帰ってきたという驚くべき経歴の方なんですね。

そのお父さんと自分の中国留学時代の体験と照らし合わせながら、日本と中国、自分と父親、中国にいる血縁のない親戚家族との関係に迫っていくというルポルタージュです。

お父さんの城戸幹さんは、満州へのソ連侵攻によって、実の家族と生き別れることになったのですが、養母付淑琴に引き取られたことで生き延びるチャンスを得ました。「大地の子」など残留孤児を題材にした本など読まれた方ならお分かりになると思うのですが、引き取り先次第で孤児の境遇に大きな差が出てきます。
そして、本当に幸いなことに、養母は貧しいけれど大変深い愛情を注いで城戸幹さんを育てていきます。

引き取られてから孫玉福(ソンユイフー)と名付けられた城戸さんは、クラスメイトなどと日本人であるがゆえに罵られるなど、日本人であることに対し葛藤を胸のうちに抱えながらも、親孝行で勉強もよくする(高校まで奨学金を得て進学した)子供として成長をしていきます。

初めての挫折は、文化大革命の最中の大学受験。
中国最高峰北京大学の合格も堅いと言われた受験直前、玉福は受験申し込み書の民族の欄に「日本」と書いたことで不合格になってしまいました。

しかし、この挫折がきっかけになり、玉福は日本に帰りたいという望郷の念が心の中にわき上がっていきます。
日本人ということで24時間公安から監視されるようになり、いつ文革のつるし上げになるか分からない。労働改造所に送られ殺されてしまうかもしれない…。恐怖におびえる日々を過ごします。

外国人(外国人だけではなかったですが)には暮らし辛く、大学受験すら拒まれる。中国は玉福にとって、自分の居場所ではないと思ったのでしょう。養母のことは大事に思いながらも。

そこから日本へ向けて手紙を書き始めます。持ち前の根性で8年間毎月毎月。日中間の国交がない時期ですから、届くかどうかもわかない手紙です。普通の人なら途中できっと心が折れ、あきらめてしまうところです。
優しい養母や親友に恵まれたのだから、中国で生きていくことにしたとしても間違いではなかったと思います。でもそれくらい祖国に帰りたいという気持ちが勝っていたのでしょう。

手紙を出してから8年後、日本の厚生省からついに念願の返信が届きました。実際に帰るまでに、そこからさらに2年待たなくてはならかったのですが。
日中の国交正常化の波に乗ることができた、そういった幸運もあり、残留孤児帰還事業の始まる前についに日本に帰ることができました。

作者の城戸久枝さんは、この驚くべきエピソードをもつお父さんのことを詳細に取材しています。取材対象が肉親なのは、やりやすいのか、やりにくいのか自分にはわかりませんが、彼女は自分のよく知っている相手でありながらも、距離の取り方にすごく注意を払い、丹念に取材し、そして感情に流されることなく冷静に、自分の知らない父親の半生を見つめていきます。そこがすごいところだと思います。

別れの場面は冷静な筆致で書かれたルポルタージュなのに、涙なしでは読めません。

この本は色々なことを考えさせられるきっかけになりましたが、自分にとって一番は「望郷の念」というものについてです。
自分は今外国で暮らし、こちらで伴侶を見つけたため、自分としては、当然のように、ずっと上海で暮らしていこう、老後は妻の実家で暮らそう、と思っていたりします。
ホームシックの経験もありません。

外国で暮らすきっかけがそもそも大違いなので、直接の比較は愚かだと思いつつ、実の母以上の存在である養母から離れる決心をした城戸幹さんのことを、頭では理解できても、「そんなにも望郷の念というものは強いものなのか」と思ってしまうのです。(もちろん批判ではないですよ)

この本は「遥かなる絆」というタイトルでNHKでドラマ化されています。原作本からのアレンジが的確でたいへんよく出来ていると感じました。NHKで作られて良かったと思います。他の局だったら大げさな安っぽい御涙頂戴ドラマになっていた可能性が高かったでしょうから。
本だけでなく、ドラマもおススメです。ぜひ見てください。

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by satsukijin | 2019-09-11 02:40 | 読書&映画ドラマ感想 | Comments(0)

同人誌サークル「ふたつ星倶楽部」のブログです。2019年現在上海におりまして、今はいろいろ身の回りのことなどを書いています。


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