「宇宙戦艦ヤマト」の真実ーいかに誕生し、進化したか
■基本データ
著者 豊田有恒
出版社 祥伝社
初版 2017年10月
ページ数 224p
本編クレジットで「SF設定」とされている豊田有恒さんから見た、宇宙戦艦ヤマトの成り立ち、舞台裏が書かれています。
豊田さんは、SF作家なのですが、大学卒業後しばらくは虫プロに籍を置いてアトムのシナリオを書き、アニメシナリオライター第1号としてテレビアニメ創世記に名を残す人です。
ヤマトについては、虫プロ時代から知り合いの西崎Pに誘われる形で最初期から関わっているので、今までの書籍では書かれなかったような「新事実」があるかと思ったのですが、その点についてはやや期待はずれという感想を持ちました。
ヤマトのストーリーや設定のほとんどはこの「アステロイド6」から大きく変わることはないので、この「アステロイド6」が原作といって差し支えない、そう僕は思うのですが。豊田さんは「原案」としてクレジットしてもらうことを西崎と「口約束」したうえで、「アステロイド6」というヤマトの基本案になる企画書を執筆しました。その後、ヤマト裏番組の「猿の軍団」にも関わることになってしまい「SF設定」に立場が後退することを西崎から譲歩させられてしまいます。西崎Pの口車にまんまと乗せられてしまったわけです。
これが後で悪い方向で効いてきます。いわゆる「ヤマト裁判」において、本来宇宙戦艦ヤマトの「原案」どころか「原作者」としても名乗り上げることができたはずの豊田さんは原作者として扱われなくなってしまいました。豊田さんがうっかり者というよりは西崎Pの怪物的交渉能力故のことなんだと思います。その西崎Pの怪物性についても、この本は紙数を割いて書いています。
ヤマトマニアの自分としては、あのヤマト裁判は腑に落ちない。原作者は松本零士ではないと思うけれど、西崎Pでも決してない。西崎Pの功績を認めていないわけではないのですが、彼はクリエイティブ面での関与はないと思うのです。
松本零士は「アステロイド6」を面白くアレンジしたという最大の功績があり、豊田さんはヤマト原作に相当する「アステロイド6」を書き、ゼロから最初の一歩を生み出した。自分はヤマトの原作者は、やはり豊田有恒さんだと思うのです。
それがあの裁判は、原作者でもないふたりがそれぞれ原作者であることを主張するというおかしな展開になり、結果、西崎Pが原作者ということになりました。
この本に期待したのは、なぜ豊田さん自身が裁判において「原作者」を名乗らなかったのか。この一点です。
これについて全く触れてすらいません。
いちヤマトファンである僕の認識が間違っているのかもしれませんが…。
他には、松本零士側の弁護士が知的財産権の裁判に慣れていなかったこと、証人として協力を申し出ても呼ばれすらしなかったこと。
これらについては不満めいたことが書かれてます。
「ロマンアルバムエクストラ」、「”宇宙戦艦ヤマト”を作った男 西崎義展の狂気」、これらの本と合わせて本書を読むとそれぞれ補い合う内容になっていて面白いのではないかと思います。